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 ■ 首都圏大震災は近づいている

大学院総合理工学研究科 
人間環境システム専攻(教授) 
翠川三郎

 南関東地域は地震活動が活発で、今後30年間にM7クラスの地震が発生する確率は70%程度といわれています。このような地震環境にある首都圏は、人口や建物が密集し、政治・経済・行政機能などの中枢機能が極めて高度に集積していることから、直下の大地震にみまわれた場合、人的被害や経済被害は甚大なものとなるものと考えられます。そこで、国の中央防災会議は、2003年9月に首都直下地震対策専門調査会を発足させ、首都直下地震による被害想定を実施し、効果的な防災対策について検討しています(詳細はhttp://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/shutochokka/index.htmlをご覧下さい)。

 首都圏直下で想定される地震としては、地殻内の浅い地震やフィリピン海プレートと北米プレートとの境界の地震、フィリピン海プレート内の地震など様々なタイプの地震があげられています。それらの中で、ある程度発生の切迫性が高く都心部に大きな影響を与えるもののひとつとして、プレート境界で発生する東京湾北部の地震(M7.3)があげられており、この地震による揺れは東京の下町で震度6強に達するとされています。

 この地震による物的被害については、揺れによる建物の全壊が15万棟、液状化等による全壊が4万5千棟、火災による焼失は地震が強風時の夕方に発生した場合には65万棟に達するとされています。これらの建物被害等により発生する瓦礫は9千万トン前後で、首都圏で通常発生する瓦礫の10年分を短期間に処理しなければならないことになります。家を失った人々に応急仮設住宅を建設するには、通常の供給速度を考えると2年以上かかる計算になり、さらに約2000haの空地(日比谷公園の120倍)が必要で、これらが容易に実行できるとは思えません。

 人的被害については、地震が強風時の夕方に発生した場合には、火災によるものも含め、死者は1万人を越え、負傷者は20万人に達するとされています。また、地震が昼に発生した場合には650万人の帰宅困難者が都心部を中心に滞留するものと予想されています。例えば、都庁から約20km離れた調布までの徒歩による所要時間は平常時でも6時間弱で、震災時にはさらに時間がかかるといわれており、体力の弱い災害弱者を含む大量の帰宅困難者に対する対応は大きな問題です。また、ライフライン、特に水道の被害の影響により、避難所生活を余儀なくされる人々は400万人前後と予想されています。経済被害については、大きな火災となる場合に、直接被害額が70兆円弱、間接被害額が45兆円、合計の被害額は100兆円を超えます。ただし、間接被害額については、株価や物価の変動や新しい産業への影響など考慮されていない面もいくつかあります。国の一般会計予算が約80兆円、GDPが約500兆円ですから、日本経済全体に及ぼす影響は甚大でしょう。

  このように、首都圏直下地震が発生した場合、様々で膨大な被害が生ずるものと想定されています。これらを軽減するためには、まず被害を出さないための構造物の耐震技術が重要であることは論を待たないことですが、このような事前対策以外にも、前段となる防災意識の喚起や防災戦略の策定、災害直後の災害弱者への対応、事後の復興計画なども重要と考えられます。そのためには、ハザードマップ作成技術や防災教育法、社会的合意を考慮した防災戦略の策定手法、高齢者など災害弱者のための都市のユニバーサルデザイン、など様々な防災技術が必要とされます。首都圏大震災は近づいています。残された時間は限られていることを十分認識しながら、本COEプログラムの活動を通じて、私たちは首都圏大震災の軽減に具体的に貢献したいと考えています。


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